** 『その日』を迎える **

 当日は午前11:30にピックアップの約束。あとこちらで準備するものはお花(レイ)だけとなりました。
 ハワイで生花を買ったことはありません。どんな街にもお花屋さんはあるでしょうけれど、ワイキキで見かけたことがあっただろうか? 今までは興味がなかったから通り過ぎていただけかもしれない。けれど、狭い街とはいえ、少ない時間でワイキキ中を歩き回ってお花屋さんを探すなんて、出来るだろうか。私は不安になりました。検索してもまったくといっていいほど情報が掴めなかったのです。
 船のチャーターをお願いした、前出のWaikiki Bottom Fishing Tourさんに訊ねてみようか、と考えていた時、ひょっとしてフラをなさる方なら知っているのでは、と思いつきました。
 ネット仲間のまきさんに訊ねてみると、ハワイ在住のお友達にわざわざ問い合わせて下さり、お花屋さんを教えていただきました。(まきさん、感謝します!)
 ロイヤル・ハワイアン・ショッピング・センターのカラカウア大通りに面した小さなステージの側に、そのお店を発見しました。レイが1本 $8〜$15ほど。繋げる前のお花を4本分とレイを2本、前日に予約しました。計$40でかなりのヴォリュームのお花が揃いました。気をつけて歩いていれば、生花のレイを売る出店をいくつか見つけることができました。なんといっても、ここはハワイなのです。普段見ていないだけなのですね。
 一夜明けて3月15日土曜日。朝10:00に予約していたお花を取りに出かけます。戻ってから黒字に花を散らしたシンプルなデザインのサロンを巻き、迎えを待ちました。
 11:30ぴったりに、船長さん自らがバンで迎えて下さり、港へ向かいます。  


 
 Waikiki Bottom Fishing Tourさんは、その名の通り、釣りを専門にしている会社です。チャーター船も釣り舟で、ゲストは6名まで乗れます。
「上の方が気持ちいいですよ」と、2Fの操縦席の後ろに招かれ、ポイントに向かいます。当日は土曜日ということもあり、後継ぎの息子さん(15〜16歳くらいかな?)が操縦してくれました。
 散骨場所は想像していたよりずっと陸地に近く、ワイキキ・ビーチのホテル群とダイアモンド・ヘッドが見渡せます。そこは、きっと父が望んでいた通りの眠りの場所に違いありません。
 早速、父の遺灰を手で掬い、海に撒きます。この日は波も穏やかで、父の遺灰はさらさらと、気持ちよさそうに海の中に溶けてゆきました。続いて用意したレイとお花を海面に浮かべます。エメラルド色に輝く海に原色の花々が漂い、それはもう美しい光景でした。
 こうして、父はようやく愛するハワイの海へ還ることができたのです。
「最後に2、3週しましょう」
 船の上から、花に囲まれた父を見届けて、散骨は終了です。
 証明書など死者にとっては無用の物。肝心なのはやはり気持ちです。
 散骨は難しいものでも高額なものでもありません。そこに見送る人間の心さえあればよいのです。
 こうして文章にしてみるとあっけないように思えるかもしれません。けれど、想いを込めて、故人を愛した場所に還すという責務は、きちんと果たすことができたのです。
 一度も泳ぐことの出来なかったハワイの海で、父は今頃、幸せに眠っていることでしょう。そう信じられることが、残された者たちをも救ってくれるのです。


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